金子國義さん

きれいなもの。

2. きれいなもの。

矢部慎太郎(以下慎太郎)実は今年ね、玉さんの衣装から、これ作っちゃった。帯締めはバッと白で。この着物、ほんとは4月の周年パーティに着ようと思ってたんですけど、先生の松の着物が出来上がってくるから、もうこれ着ちゃいました。帯も着物もぜんぶ玉三郎さんの歌舞伎の衣装をアレンジしたんです。あんまり素敵だから。ビデオとか写真を拝見しながら「こういう図案も素敵」って考えました。

金子いいじゃない!これ。あの人のセンスはすごいよね。

矢部慎太郎(以下慎太郎)そう、着てみたら合うの。だから玉三郎さんがこの着物で歌舞伎に出る時は、私もこの着物を着て見に行きたいんです。ぜんぜんお話は違うんですけど、昔ね、大阪に歌舞伎役者のゲイバーがあって、たとえば道成寺をやるっていったら、みんなが道成寺の衣装を着て店で待ってるんだって。そういうの、嬉しいじゃないですか。だから金子先生と本日お会いするっていったら、金子先生の着物で行きたいし。そういうのも心遣いだと思うんです。意味がないものって、ほんとに意味がないものね。でも先生の着物は、小紋もいいけど、やっぱり一点ものがいいですね。先生、桜の着物、来年作ってほしいな、と思ってます。一ヶ月毎日着ますから。あと、先生の着物って意味がありますよね。勘九郎君の結婚式であの銀杏の着物を作っていただいて、森光子さんと写真を撮っていただいたのが懐かしいわ。

金子銀杏の着物、あれも良かったね。

矢部慎太郎(以下慎太郎)良すぎるの!だから普段着にはできないけど。後ろには、鶴が銀杏の葉をくわえている紋を作っていただいてね。

金子でも慎太郎は才能がある人ですよね。すごいと思う……やり手って言ったらおかしいけど、もうね、四方八方なんでも興味がある。これがいい!というものを見つけるのは才能ですよ。さっきの水差しを見て「欲しい!」って言ったでしょう。ぱっと見てね。僕もぱっと見てこれ欲しい!って思うんですよね。

矢部慎太郎(以下慎太郎)私も欲しいと思ったもん。綺麗なものが大好きだから。

金子そこが共通点かしら。

矢部慎太郎(以下慎太郎)それと、こだわり。

金子好きなんですよ、そういうのがね。好きじゃないとね。。

矢部慎太郎(以下慎太郎)いやなものは絶対にいや。

金子嫌いなものは大っ嫌い。好きなものは、もう大好き。

矢部慎太郎(以下慎太郎)いちど好きになったら嫌いにならないもんね。

金子ね。いいものがわかるってことが、才能じゃないかしら。いいものがわからない人は、不粋。

矢部慎太郎(以下慎太郎)金子先生には、どなたか先生がいらっしゃったんですか?

金子僕は日大の芸術学部に通っている時に舞台美術の長坂元弘先生に弟子入りすることになるんですけど、それがもう…箸の上げ下ろしから始まって、全部教えてくれて。先生より先にお箸をつけちゃいけないし。

矢部慎太郎(以下慎太郎)でも先生、もともとそういうのはご存知でしょ。

金子好きなんですよ、そういうのがね。好きじゃないとね。

矢部慎太郎(以下慎太郎)好きじゃなきゃ始まんないですもんね。

金子好きだから、食いついたら離れない(笑)。タクシーに乗るでしょう。それでね、「先生は右っておっしゃってるけど、ここは左ですよ」って言ったら、「先生が右だと言ったら右だ」って。そういうきついところがありましたね。

矢部慎太郎(以下慎太郎)右、右、右で、ぐるっと回れば元通り。そこで左に行けばいいんですから。そこで「私が言ったことが正しいんだ」ってね。自分の審美眼を信じるって、そういうことですよね。何が正解かって、その人が言ったことが正解なんですから。

金子慎太郎とは、緊張なしっていうのがいいよね。さばけてるっていうか、それが垢抜けるってことなんですよね。

矢部慎太郎(以下慎太郎)話が合わないとか、美しいものに興味がないとか、そういう人は友達になれませんよね。

金子そう。そういう人はダメですよね。美しいものを見抜く。その審美眼っていうのは、美しいものをもう一つ美しく思うっていうんでしょうか。だからお着物でもそうですよ。美しいね、って言うんだけど、もうひとつ!……素敵だなって思う。それが上等、高級なのよね。

矢部慎太郎(以下慎太郎)『オデッサの階段』、先生ご出演になりましたね。素敵でした。

金子私、陰影礼賛が好きなのに、スタジオはすごく明るかったんですよね。でも四谷シモンさんがいいこと言ってくれてるんです。僕が絵を描くきっかけになった切り抜きのお話。

矢部慎太郎(以下慎太郎)これなんですね。

金子そうそうそう。プードルとか、絵はがきとかいっぱい貼ってあるでしょう。こういうのに熱心に時間をかけて作ってたというのが、やっぱり勉強になってんでしょうかね。

アトリエの額写真

矢部慎太郎(以下慎太郎)ぜんぶ無駄じゃありませんよね。ところでこれを作ってるのは、いつなんですか?先生。

金子舞台美術をやめて、自分の好きな物を集めては…って頃。自分の原点。慎太郎の原点は何ですか?

矢部慎太郎(以下慎太郎)原点…なんでしょうか。お仕事は京都・祇園で始まったんですけど、やっぱり美しいものにすごく惹かれるのは銀座に来てからかしら。先生と出会ってからですよ。ほんとに。だって私、凝り性で、ググググッって、急速に吸収したくなっちゃうから。1年で5年分ぐらい!

金子あのね、僕は自分のことを自慢するんじゃないんですけど、いいものを見抜くっていうその力は、結構あったんですよ。いいものがあると、どうしても買っちゃう。こういうランプとか。

矢部慎太郎(以下慎太郎)欲しいものは欲しいですものね。